No.00093

painting

Title:芽
Size:h 50 X w 40 cm
Date:1974

春の胎動
庭の桃、桜、ツバキ、モクレンなどの木々のつぼみが、ちょうど高速度写真でも見るようにすこしずついきづいて、やがていっせいにけんを競い合う向き季節が、もうすぐそこまでやってきている。
毎年、そうした花々の、みずみずしい美しさに魅せられながら半面、ひと冬を霜や雪の冷害にもめげず生きぬいてきた植物たちのたくましさ、辛抱強さに身を見張るのである。
いわば、現在のこの時期はゴールを前にしたランナーの最後の追い込みの心境にも似て、季節という大きな関門を目前にした忍苦の時ということになろう。
さて、そうしてやっと悲願のかなった花たちは、長い苦しみの代償であるはずの華麗な装いを、やがて惜しげもなく捨て去って、すぐその時から、ふたたび新たな出発を目指すのである。
そうした自然の営みの淡々としたいさぎよさを見せられるごと、いたずらに過去の仕事に安住して、そこから容易に腰を上げようとしない自分のふがいなさが、つくづく情けなく思われてくるのだが…。
季節は今も、そういったもろもろの感懐を載せて、急ピッチで近づいて来ているのである。

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