Title:湫葉
Size:h 44.7 X w 33.5 cm
Date:1990
秋・残された時間
岡麓(おか ふもと)の歌に「秋の蝉啼くをしきければ、生き残る命ひちすらかなしかりけり」というのがあるが、軒ばにすだく悲しげな虫の声や、庭の木立の葉音に秋の訪れを聞いては、人の老いの哀れさが日増しに強く感じられる。
先日も、八幡から熊本のはずれまで、わざわざ私を訪ねてきてくれた絵の好きな娘さんに「時間だけは大事にしてくださいよ」などと殊勝らしいことを言ったのも、秋という季節がもたらした自然な感情の高ぶりからであったろう。
死・無限の闇・永却の孤独ーそういった魂もよじれるような焦燥にもがき苦しんだ若い日の純な驚きは、もう二度と甦るすべもなくなったが、「残された時間!」というものが、私にとってどんなに大切なものであるかといった切迫した気持ちから、それに懸命に取りすがろうとする執念みたいなものが、歳を取るごとにつのるばかりで、いたずらにその日その日を使い果たしてきたに過ぎない自分の過去が、今になってたとえようもなく惜しまれてならない。